「ミヤ!」
起成がヒカルの声に振り返ると、屋上の扉にミヤが寄りかかっていた。
「体は大丈夫なの?」
「うん、平気」
だがどう見てもそうは見えない。
息を切らし、顔は真っ青で、今にも倒れそうである。
「ヒカル、ヒーリングで直すことはできないのか?」
「体の傷とか、病気ならそれも可能なんですが、魔力だけはどうすることも・・・・・・」
「大丈夫・・・・・少し休めば回復できる」
「でも、そんなんじゃ。戦うのは無理よ。あなたは保健室で休んでいなさい!」
ヒカルはミヤを連れて行こうとする。
「嫌だ」
ミヤがそれに逆らおうとする。
「わがまま言わないの!」
「嫌だ!!」
ミヤは保健室に連れて行こうとするヒカルを突き飛ばした。
「ミヤ!」
ヒカルは怒っているようだった。
だがそれはミヤのことを案じているからだ。
「もう嫌なの・・・・・・」
ミヤはそんなヒカルをにらみつけた。
「私が見ていないところで、イブンが死ぬのは絶対に嫌なの!」
「・・・・・・」
その言葉をきっかけに瞳から涙が溢れ出す。
ミヤはないていた。
まるで駄々っ子のようにないていた。
「ミヤ・・・・・まさかあの夢を?」
ミヤはうなずく。
「そう・・・・・・」
ヒカルはミヤを労わるように抱きしめた。
起成は思う。
今朝のミヤの激昂、イブンという過去の主人、死というキーワード、そして夢。
ミヤは自分が死ぬことを極端に恐れている。
自分が見えないところで。
おそらくはヒカルも。
それはつまり、昔イブンが彼女等の関わらない所で殺されたということ。
四六時中付きまとうのはきっとその反動。
だから、彼女たちは守ろうとするのか。
過ちを繰り返さないために。
「ミヤ」
起成はミヤを抱きしめた。
「大丈夫だから」
「あ・・・・・・」
「今はゆっくり休め」
ミヤは糸が切れた人形のように起成にもたれかかった。
そしてミヤは起成の体温を感じて安心したかのように眠り始めた。
その背後でヒカルは少しさびしそうに立っていた。
結局、起成は午後の授業をサボることになった。

ミヤは保健室で目が覚めた。
ベッドの周りはカーテンで囲まれている。
おきあがり、カーテンを開けると白衣の女性が机に座っていた。
確かこの学校の保険の先生で名前は宮原だ。
「あら、おきたのね」
「はい」
「体のほうはもう大丈夫なの?」
「おかげさまで」
「そう、ならあと少しで4限も終わるところだし、それまではここで休んでおきなさい」
「はい、それで」
「何?」
「何で私はこんなところで寝てたんですか?」
「・・・・・・」
どうやら私はあの後、起成に背負われて保健室までつれてこられたらしい。
貧血だというもっともらしい理由をつけられていたが、もちろんそうではない。
ベッドで横になりながら、手のひらを見つめる。
そこには黒い渦があった。
それは人外や一部の才能ある人間しか使えない不思議な力。
魔法の元、魔力である。
それは普段ミヤの体のかなで渦巻いているエネルギーそのものを手のひらに浮かばせて、ミヤはそれをじっと見つめていた。
久しぶりに顕現した最初の夜、ミヤはこの世界に違和感を感じていた。
それはかつては満ち溢れていたあるものがなくなっていたことだと最初は気づかなかったが、こうやって自分の体は予想もしなかった症状を起こすことでひとつの可能性にいたったのだ。
その症状とはこの世界に顕現したときから少しずつだが減少している魔力。
それにともなう、顕現の維持の難化。
ミヤの手の中の黒い渦は最初の夜よりも弱くなっていた。
昔はあって、今はないもの、それは、
「マナ?」
屋上で起成とミヤは家から持ってきた弁当を食べながら、今後の方針について話していたときに出た言葉である。
「マナとは魔力の源です。昔は満ちていたそれが今ではわずかしか残っていません」
「それがつまり、ミヤが倒れた原因か」
「はい、おそらくマナを媒介としない自身の魔力を急激に消費したことで生命エネルギーが激減して、貧血と似たような症状を引き起こしたのでしょう」
「魔法って言うのは魔力がないと使えないのか?」
「魔法を引き起こすには、あの本屋の女住人も言ってましたが、魔力は必要不可欠です。そして魔力とは文字通り、生命を代償とする力。昔は空間にも生命があふれていたのですが、今ではほとんどないこの世界でもし魔法を行使しようとおもったら、私たちのような存在なら自身の魔力を消費するか、人間なら自身の命を削るか、他人からもらうくらいしか方法がないのでしょう。」
「ならば春は自身の命を削って魔法を行使しているのか?」
「いえ、おそらくそうではないとはおもいます。人から魔力をもらうという方法は、あの青い犬の主みたいに無理やり奪うだけではなく、両者合意の上での契約という形で渡されることもあります。そしてそれは人外ともやり取りできる。おそらく彼女は何らかの条件と引き換えに裏世界の住人に魔力を提供してもらう契約をした正当な魔術師だとおもわれます。古来からマナが満ち溢れていた時代でも、存在した慣習です。今でも残っている可能性は高い」
「なら何故青い犬の主は人から無理やり奪い取る?人外と契約しているならば、必要のない行為なのではないか?」
「もちろん、予想外の被害を受けてミヤと同じように急激に魔力が減った可能性もあります。もし青い犬の主が人間ならば、魔力の大量消費は致命的ですから緊急措置てきな感覚で人を殺して魔力を奪ったのかもしれない。そう考えると、いままで何度も犬を使って人を襲っているはずなのに人死にはあの夜が初めてというのも納得いきます」
「だだそう考えると、普段の魔力補充も意味がないだろう。契約しているなら普通はそれで事足りるのではないか?」
「あるいはその契約だけでは足りないのかもしれません。だから、こつこつと目をつけられない範囲で人を襲って殺さない程度に魔力を奪っていた。でもそこに私たちのような存在があらわれて、チャンスだとおもったのかもしれません。そして出た勝負に負けた青い犬の主は管理者に目をつけられることを覚悟の上で仕方なく殺したのかも」


人は嫌いなものを遠ざける。
人は好きなものを独占する。
人はわからないものを知ろうとする。
人はわかっているものに飽きる。
人は飽きたものをすてる。
それが人の本質なのだよ。
by イブン
懐かしい夢だ。
まだ私が本の中で永い眠りにつく前、
私たちは自身の存在をかけて闘っていた。
私は闇、ヒカルは光の化身として光と闇の境目はどちらに属するものなのかを決めるために、世界を巻き込んで闘っていた。
互いに性質は正反対なれどその力は協力無比、しかも全くの互角であった私たちの戦いは誰にもとめられなず、また私たちもとめられなかった。
当時は昼と夜は交互にあるものではなく、昼と夜は私たちの力の拮抗を示すかのように、絶えず変化し続け、そのせいで気候は乱れ、世界は乱れ、果ては時の流れまで乱れようとしていた戦いをとめたのは一人の青年だったのだ。
名をイブンという。
彼は誰にもとめられなかった私たちの戦いの間に割り込んだかと思うと、強引に私たちの戦いをとめてしまった。
彼に特別な力があっとは思えない。
事実、彼からは魔力のいっぺんすら感じ取ることができなかった。
しかし、ただからだが頑丈なのがとりえという彼はその勇気と幸運によって私たちの戦いを見事にとめた。
それは奇跡というも生ぬるい。
互いが全力で互いを滅ぼそうとしていたところに割り込めば、100回中100回塵となる。
ただの人間が命永らえることですらそれは試行が万になろうが億になろうが絶無である場で、彼は生きながらえるどころか、止めたのである。
無から有を生み出す、それは神の所業に等しき行為。
私たちはかつて神に仕えていたときに神自身から聞いた、人の持つ神を超える可能性を彼の中に垣間見た。
そして彼が私たちに割り込んだというその結果は光と闇の緩衝たる存在を生み出す。
彼は境目をめぐる闘争の勝者となり、彼は人でありながら、境目の化身となったのだ。
それは大量の血の上に成り立った赤い空。
人はそれを彼の名からとってイブニングと呼んだ。
そして私たちはきっとその瞬間からひとつになったのだ。
まるで星の始まりからずっと一緒にいるような親近感、いられずにはいられないその感情。
光と闇と夕方は、その瞬間からきっても切り離せない存在になり、それらの化身である三人はそれが当たり前のように3人でずっとともにいるはずだった。
ある魔女に会うまでは。
そして彼は死んだ。
彼は魔女のナイフの一突きであっけなく死んだ。
私たちなら、それはありえない。
ゆえに彼はただの人間であるという証明がそれであっさりとなされた。
夕方の化身であるはずの彼は、私たちの力を狙う魔女に狙われてあっけなく死んだ。
人間はなんてもろいことか。
そのときの私たちの絶望はいかなものか。
私たちは緩衝の消失による力の暴走と自身の半身とも言える存在の消失に恐怖した。
しかし彼は、死に逝く中でなお笑いながら私たちを励ましてくれた。
死にかけているのは彼のほうなのに、安心しろ、と。
ヒカルの治癒呪文はきかなかった。
ナイフには魔女ののろいがかかっていたから。
しかし彼の目には、絶望は存在していなかった。
彼は死にながら約束した。
また二人に会いに行くからそれまで待っていろ、と。
きっと生まれ変わってでも会いに行くから待っていろ、と。
だからもう喧嘩するな、と。
私たちも約束した。
赤い空の下、彼は息を引き取った。
しかし、空は赤いままだった。
暗くなり、また赤くなり、明るくなり、赤くなり、暗くなり・・・
私たちの予想とは反対に、光と闇の緩衝としてのイブニングは残っていた。
それはきっと彼が存在した証拠なのだろう。
彼は息を引き取った後、砂になった。
何故砂になったのかはわからない。
その後、彼は人々の記憶からも姿を消した。
その代わりに存在してるのがこの赤い空なのだというのならば、それはなんて悲しいことだろう。
彼は自身の存在を犠牲にして、この赤い空を世界に固定したのだ。
私たちの記憶を除いて。
彼はそこまでして私たちのことを思っていたのだ。
また境目をめぐって争わないように。
私たちは反省しなければならない。
彼が死んだ原因は、すべて私たちにあった。
私たちが後にも先にもあの彼の意見にさえ逆らわなければ、そして彼のそばから離れなければ、こんなことにはならなかった。
だから今度は、彼の言うことには絶対に逆らわない、彼のそばから離れない。
私たちは彼の遺志を組まなくてはならない。
私たちは彼と同じように自身の持てる力のほとんどを代償に光と闇をこの世界に固定した。
そして、残った力で私たちは互いを一冊の本に封印した。
私たちは本の中で彼の生まれ変わりに出会えるのを願いながら眠りについた。
タイトルは「封印の書」

大学生活には課題が多い。
プログラム、レポート、サークル
すべてをこなすのは不可能ではない。
しかし、不可能だ
IDなしでニコニコ動画が視聴できるニコニコ動画ビューア(仮)
http://urakaze.com/nicovideo/
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