マテパズ(偽)ブログ

ニコ厨な大学生プログラマーの3日坊主的ブログ

小説)封印の書 第10話 リスク その4

とあるマンション前はたくさんの人が動いていた。
ある人は現場を検証し、ある人は瓦礫を除去していた。
そこを人と通さないために監視する人がいて、その境の外にはたくさんの人だかりができていた。

「まさかこれほどとはね・・・・」

その中に通りすがりの魔法使いがいた。

「さすがは古代の天使といったところか」

魔法使いは誰と話すわけでもなく、一人つぶやく。
目の前に広がるのは、前は道路であったであろう瓦礫の山。
しかもきれいに道路だけが壊されており、他の建物には被害が及んでいない奇妙な光景だった。
誰もがありえない事象に戸惑っている。
なぜなら昨夜には確かに存在していたはずの道路が、完璧に粉砕されているのだから。
だが実際に起こったものは受け入れざるを得ない人々は復旧作業に追われている。
後に局所的な地盤沈下と発表されるこの自然災害の原因を理解しているのは、その場所にいたもののみ。

「これは是非とも欲しくなってきたよ、起成君」

この原因を知る魔法使いはくすくすと笑って人混みの向こうに消えていった。

「これはどういうことでしょう?」

夕菜は破壊された道路を見てそうつぶやいた。
彼女は本来ここにいるべき人間ではない。
彼女は紅家当主から起成の住む屋敷の最高責任者に任命されているメイドである。
普段のこの時間は、屋敷で掃除をしているところなのだが、
とある筋からの通報を受けて、屋敷の管理を部下のメイド(起成は多くの人に世話されるのを嫌うために周辺に潜伏させていた)に任せて一般の人が入れない所にいた。
つまり災害現場の真っ只中、警察が検証している現場である。
警察官や消防隊員がうろうろしている中でメイド服は違和感ありまくりなので、今の彼女はスーツ姿である。
そうなると今の彼女は大金持ちの侍女ではなく有能な若いキャリアウーマンに見える。

「警部、これが周辺住民の被害状況です」

そういって現れたのはここの管轄の巡査長である。

「ご苦労様です」

警部とよばれた夕菜は当たり前のように書類を受け取る。
もう一度言うが彼女は紅家のメイドである。
書類を一通り眺め夕菜はうなずく。

「おかしなものですね。これほどの地盤沈下が、人のいる建築物にはまったくの被害を起こしていないなんて」
「確かに変な事件ではありますが、」

そういって巡査部長は口を濁す。

「ますが?」
「わざわざ首都の本部が出張るような事件ではないのではないでしょうか?これは事件ではなく事故なわけですし」
「先日の野良犬による殺人もありますし、とりあえず怪しいことは調べなければなりません」

そういって、夕菜は書類を巡査部長に渡す。
その動作や台詞は首都から派遣されたエリート警察官のそれである。
だが彼女はメイドであって警察官ではない。

「いや、しかし野良犬にしろ今回の件にしろ人の手で起きた犯罪とはいえないものです。わざわざ本部の手を煩わせるほどのことではありませんよ?」

巡査部長の台詞からは、暗に現場はこちらに任せろというのがにじみ出ていた。

「それは人々の治安を守る警察官の台詞ではないでしょう。ああ、そんなだからいつまでたっても野良犬騒ぎを解決できないのかしら?」

そういって夕菜は小馬鹿にしたようにクスクスと笑った。

「そんなだから、多忙な私がこんな片田舎に派遣されることになるのよ。わからないの?」
「・・・・・・」

巡査部長はこぶしを握り締める。

「お偉方は今この町に大変興味がおありです。これ以上の治安の悪化は絶対に避けなければならない」
「首都のかたがたが、こんな片田舎に興味がおありとは光栄ですな。有能な警部殿が派遣されるほどでしょうからよほどの御方が滞在なさってでもいるのでしょうかね?」
「それはたかが片田舎の巡査部長が知ることではありません」

夕菜は現場を離れて、近くに止めてある警察車両に乗り込んだ。
隣にはすでに先客が乗り込んでいた。
夕菜のとなりに座っているのは恰幅のよい中年の男。
だがその表情は引き締まり、修羅場を潜り抜けた者特有の雰囲気をまとっている。
何故なら彼はメイドではなく首都から派遣されてきた本物の警視だからだ。

「夕菜様、現場の様子はどうでしたか?」
「ただの地盤沈下ではないけど、それ以上は何もわからないわ」

本来なら警部である夕菜が警視に対して敬語を使うべきだが、警視が敬語を使い夕菜もそれを気にしない。

「しかし、紅の方がこのような片田舎においでなるとは思いませんでした」
「あの無能な部下にもいいましたが、世の中には知っていいことと悪いことがあります。長生きはしたいでしょう?」
「ええ、それはもちろん。私はそれより紅家が片田舎の事件の解決の助力をしてくれるという点に大変驚いてますがね」
「この国の平和を脅かす悪を駆逐するのも紅の役目ですので」
「これは素晴らしい!惜しむらくはその悪に紅が含まれないということでしょうか」
「そんな警視は清と濁をうまく使い分ける有能な方とお聞きしております。一体何人の犯罪者を撃ち殺したのか今度是非お聞かせくださいませんか?」

夕菜と警視は互いをじっと見つめあう。
紅のメイドである夕菜にとってこんな狐と狸の化かしあいは既に日常である。

「ええ、それは機会があれば是非。紅の方とは今後も仲良くしていきたいものです」
「こちらこそ警察の方とは末永くお付き合いしたと思っております」

そういって夕菜は警視に封筒を手渡した。

「紅の方でまとめた近隣の犯罪集団の過去一年間における犯罪とその証拠です。違法捜査にならない要に処理は行ってますのでどうぞお好きに使ってください。あとは捜査に必要な資金が入っています」
「またずいぶんと太っ腹ですな。ありがたく頂戴しますよ」

夕菜はパトカーを降りると、風にあおられながら近くに止めていたベンツに向かう。
これで付近の紅の敵対的な犯罪組織は一掃されるだろう。
次期当主が短い間とはいえ住む町なので治安は万全にしないといけない。
それにしても最近は不可解な事件が起こっている。
本来ならすぐにでもこの町から出てもらいたいところだが、若様はそれを望まないだろう。
下手をして逃げられたらことだし、ただでさえ一度逃げられているのだ。
そんなリスクは犯せない。
それ以外できることをするべきだと夕菜は判断した。
だが万一の場合は部隊を呼ぶことも考慮に入れなければならないなと思いながら車を運転していると急に車のエンジンが止まった。

「?」

キーを何回もまわすがエンジンがつかない。
仕方なくエンジンの様子を見るために車を降りる。
だが、ボンネットを開けてみても異常は見られない。
セルは正常みたいだがなぜか点火しない。

「どーしたの?故障?」

ふと声をかけられて振り向くと、長袖にジーンズの女性が突っ立っていた。

「代わりに見てあげようか?」
「あなたは?」
「そこの古本屋の店長よ。春って呼んでね」

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