マテパズ(偽)ブログ

ニコ厨な大学生プログラマーの3日坊主的ブログ

小説)封印の書 第10話 リスク その5

「いえ結構です」

そっけなく遠藤春の提案を断った夕菜はレッカーを呼ぶために取り出した携帯電話を、

「遠慮なさらずに任せなさいよ」

取り上げられた。
一瞬ぽかんとして、それから

「なんのつもりですか?」

と声も冷ややかに問いかけた。

「じゃあレッカーが来るまでこのままここに車を置いておくの?それはちょっと困るんだよね」

そういって春は後ろを指差した。
そこは遠藤春が店主をしている古本屋で、夕菜の車が見事に道をふさいでいる形になっていた。

「私の車が出れないのよ。車を出せないから、レッカー呼ぶより直したほうがはやいわよね?」
「直せないからレッカーを呼ぶんです。だいたい専門の工具もなしに修理なんてできるわけがないでしょう!」
「大丈夫よ。まあ私に任せて」

春は取り上げた携帯を夕菜に返すと、車の周りをぐるぐると回り始めた。

「ふむふむ、なるほどねー」

そういって車の壁をコンコンとたたく姿に夕菜は果てしなく不安になる。
というか勝手に人の車に触られて少し不快でもある。
だいたいそんなので車が直れば苦労はしない。

「ちなみにその車いくらするか知ってるんですか?」
「大丈夫。傷物にはしないよ」

春は何度も車の周囲を回り続け、痺れを切らした夕菜がレッカーを呼ぶと思ったころ。
ある場所でとまった春は

「えい!」

思いっきりその場所を蹴った。

「ちょ!何してるんですか!!」

つかみかかろうとする夕菜をひょいっとよけた春は運転席に回りこみ、つけっぱなしの鍵を回した。
エンジンが始動し、アイドリング状態になる車。

「え・・・・・・・・?」
「直ったわよ」

信じられないことに、あの部分を蹴ったことで故障の原因が取り除かれて車は見事に復活したらしい。

「ね、レッカー呼ばなくてよかったでしょう?」
「あ、ありがとうございます」

方法はともかく、いままでうんともすんとも言わなかった車が治ったことに夕菜は感謝していた。
ここで礼を失すれば紅のメイド失格である。
夕菜は懐から小切手を取り出して、

「お礼といってはなんですがご希望の金額の謝礼を」
「いいって!いいって!!その気持ちだけで十分ですよ」
「いえ、ですが」
「いいって!いいって!!」

よくありがちな応酬を繰り返して、最後に折れたのは夕菜だった。

「では、何かあったときは是非我が屋敷にお越しください。私はそこで家政婦をしている者です」

お礼代わりに名刺を差し出した。

「あら!あなたが噂の一夜城の家政婦さんね。メイドさんって毎日メイド服を着ているわけはないのね〜初めて知ったわ」
「・・・・・ええ」

夕菜はただ苦笑いするしかない。
今スーツを着ているのは警察官に扮していたからなんて言えない。
だが、次に春の言った一言が状況を一変させた。

「ところで起成君は元気?」
「ええ、それは・・・」

起成様、だと?
この女は起成様の知り合い?
いやしかし、初対面のはずの彼女が何故私と起成様とのつながりを知っている?
起成様が屋敷に入られたのは昨日の晩。
紅の者は元より、起成様自身あの屋敷のことは話したくない様子だった。
ならば今の段階で起成様があの屋敷に出入りしていることを知っているものは限られているはず。
なら何故それを知っているのはおかしい。
まさか敵?
ならば確かめなければいけない。
夕菜は懐から拳銃を取り出し春の額に突きつけた。

「へ?」
「あなた何者?何の目的で私に近づいたの?」

夕菜の目は暗く沈み、対照的に春は目の前の拳銃を現実のものではないかのように眺めている。

「これ本物?」
「質問に答えなさい。あなたは何者です?5秒以内の答えなさい、4、3、2」
「あわわ、私はしがない古本屋の店主だって〜」

どうやら冗談ではないと悟ったようだ。
慌てて両手を挙げながら春はそう答えた。
夕菜は念のために、春のフルネーム、生年月日、住所等を聞き出していく。
そして開いた片手で取り出した携帯からある番号を入力すると、電話の相手に遠藤春に関するデータを集めるよう指示した。
もちろん銃口は一ミリもそらさない。

「しがない古本屋の店主が何故起成様のことを知っている?」
「だってたっちゃんはこの店の常連だよ〜」

夕菜はここで起成様はある古本屋によく言っているという情報を思い出した。
事前の起成様の身辺調査であがった店のひとつだ。
そこの店長の名前は確か遠藤春だった。
彼女も最初そう名乗っていた

「それは知っている。だが、何故起成様が屋敷に出入りしていることを知っているんだ?」
「それはたっちゃんに直接聞いたのよ」
「どこで?」
「どこって、ここら辺を散歩していたらたっちゃんにあったの」
「そんなわけないでしょう!ここは高校と正反対の場所よ」
「でもいたのよ〜」

・・・・どうやら嘘はついていないようである。
だとするとあの地盤沈下が起きたとき、起成様はこの辺にいたことになる。
そんなまさか?
しかし、監視の話によると起成様が学校についたのは予鈴のあと。
しかも、懐にはあのミヤという少女を抱きかかえていた。
そのまま保健室に駆け込んだという話から、どうやらミヤが登校途中で体調を崩したらしい。
はじめはそのせいで学校に来るのが遅れたのかと思っていたが。
まさか、こんな回り道をしてたとは。
ならば起成様はあの地盤沈下に巻き込まれたか、関係している?
この女を信じてみるべきか?
銃を突きつけてからしばらく経つが囲まれた気配はない。
彼女が敵ならば、彼女は囮で既に大多数の戦闘員に囲まれていてもおかしくはない。
仮に彼女一人で挑んできたのだとしたら、舐められたものだと夕菜はおもう。
そしてそうであるならば、もう彼女は積みである。
あとはこの引き金を引くだけだからだ。
だが、彼女は単独で、他に異変がないところを見ると陽動でもない。
懐に武器を隠している気配はないし(あったら既に殺していた)
ならば早とちりしてしまったかなと夕菜はため息をついた。
ちょうど、電話がかかってくる。
銃口は春にむけたまま、電話に出ると部下からの電話だった。
遠藤春に関しての調査結果。
彼女は実在し、古本屋の店主であり、起成様の知り合いであること。
今日の起成様と遠藤春があったという目撃情報こそないが、彼女が普段起成様が登校する時間帯に散歩をしていること。
彼女が過去10年で紅に敵対的な何らかの組織に関わった経歴は見られないという報告を受けたことで、ようやく夕菜は春が完全な白であり、自分の早とちりであることを自覚した。

「ごめんなさい、私の勘違いだったみたい」
「何なのよ、もう・・・・・」

銃口を外された春は腰が砕けたように地面にへたり込んだ。

「一体何なの?人に銃口向けちゃいけないって教わらなかった?大体なんで起成君は元気って聞いただけで殺されなきゃいけないわけ?」
「それは、本当にごめんなさい。怖い思いをさせてしまいましたね。もちろん理由もお話します。よろしければ今すぐ屋敷に・・・?」

夕菜は春の顔に異変を感じた。
彼女の瞳孔が開き、ピントがこちらのあってない。

「あ、ああ・・・・」
「どうかしたんですか?」

彼女は口を大きく開け、震えながら夕菜の後ろを指差した。
振り向こうと顔を上げた夕菜はその瞬間固まった。
助手席の窓ガラスが鏡になり、夕菜とへたり込んだ春の背後を移していたからだ。
そこには確かに気配がなかったはずなのに、いつの間にか大きな獣が存在していた。
それは小熊ほどのおおきさの真っ青な毛を生やした犬。
それは間髪いれずこちらに疾走してくる。

「危ない!」

春がそう叫ぶと同時に夕菜はすばやく行動を起こす。
まず窓ガラスに映った影を確認し、そこから意図を推測して振り向きざまに発砲する。
見事に鉛の弾丸を食らった一匹目はバランスを崩し、夕菜と春を狙うコースからずれそのまま車の後部に激突する。
その重量とスピードで車が50センチほど横にずれたが、夕菜はそれに驚いている時間はない。
いつの間にか同じような大きさの青い犬たちに囲まれていた。

「乗って!」

夕菜は春を立たせて無理やり助手席に押し込んだ。
その間に迫ってきた二匹目に発砲。
眉間を貫かれた二匹目は地面に倒れる。
幸いエンジンはアイドリング中だった。
運転席に座った夕菜は車を急発進させる。

「きゃあ!」

急加速に春は短い叫びをあげる。
その勢いでドアは閉まり、助手席に押し込まれた春は助手席の窓ガラスにへばりつく形になった。
その直後目の前にいた三匹目は車に吹き飛ばされる。
車はすぐそばの角を曲がり猛スピードで住宅街を抜けてゆく。
こんなときに人が飛び出してきたら間違いなく大惨事だが、幸い付近は地盤沈下の影響で避難勧告がでておりまた野良犬騒ぎの影響で人はまったくいなかった。

「あれは何!?」

夕菜は春にそう聞いた。
もちろん答えが出るとは期待していない。

「最近騒がれている野良犬よ!」

春はそう答えたが、夕菜が聞きたいのはそういう答えではない。

「あんな真っ青な野良犬なんて聞いたことがないわよ!」
「私だって始めて見たわ。青いなんて普通じゃないわよね」

ものすごい勢いで角を曲がり続けるが、バックミラーをみると屋根伝いに何匹かがこちらを追いかけていた。
入り組んだ住宅地を走る車は、家をまたいでやってくる青犬から逃れるすべはない。
そのうちの一匹が追いついて車に体当たりをかました。

「きゃあ!!」

春はそのせいで運転席にいる夕菜のところに飛び込むが、夕菜はそれを跳ね除けバランスを崩しそうになった車体をハンドルさばきで何とか安定させる。
先ほどの体当たりで車の後部は窓ガラスが割れて悲惨なことになっている。
あれを何度もくらい続ければ、車体が持たない。

「あのワンコを黙らせるから、運転変わって!」
「え、ちょっと?」

席を倒し、ハンドルから手を離した夕菜の代わりに春が慌ててハンドルを握り運転席に滑り込む。
夕菜は後部座席に行き、右の窓から上半身をだすと背後に迫っていた犬の集団に発砲した。
一番先頭の屋根の上にいた四匹目を狙った初弾は民家の屋根に命中。
(車上での銃撃戦は久しぶりだわ)
夕菜は現在の車のスピードと今の命中結果から、弾道を予測してもう一度発砲。
今度は民家の塀の上を走っていた五匹目の犬に命中した。
今度はあたったが、狙いは四匹目の犬だった。

「なるべく安定したスピードで運転できませんか?うまく狙えない」
「そんなことしたら追いつかれるわよ!」

夕菜が再び発砲し、今度は先頭を走っていた四匹目を屋根から落としたところでカーブにさしかかる。
車はカーブの直前でスピードを落とした。

「車のスピードを落とさない!追いつかれる」
「それじゃカーブは曲がれないわよ!」

夕菜が叫び、春が怒鳴り返す。
その隙に何匹かが殺到してきた。
近すぎて、銃だけでは対処できない。

「ああ、もう!」

夕菜は空になったハンドガンを投げつける。
それをまともに食らった六匹目がバランスを崩し、地面に激突する。
そして左手で腰からナイフを取り出して、近くに迫った七匹目の喉を切った。
首から鮮血を噴出して、車と夕菜のスーツを赤く染めた。
その勢いのままナイフを八匹目に投げつけると眉間に命中した犬はのけぞり電柱に激突する。
投げた左手で拳を作り、裏拳を足元の九匹目に見舞う。
地面にたたきつけられた犬は跳ね返り、後続の進行を邪魔する。

「まったく、スーツが汚れるじゃない!」

その隙に車の中に戻った夕菜は後部座席をひっくり返す。
中に入っていたのは、携行型のサブマシンガンである。

「悪い子にはお仕置きね!」

セーフティを外して夕菜は引き金を引く。
ばら撒かれた弾丸は残りの犬たちに容赦なく浴びせられる。
あの犬は頭蓋骨が砕け、ある犬は内臓が破裂し、ある犬は頭も内臓も破裂した。
とにかく、春の運転する車の後ろには死屍累々が横たわる有様である。

後ろからついてくる影がないことを確認して、夕菜は銃をおろした。
まさか、白昼堂々銃撃戦をやるハメになるとは思わなかった。
しかも、まったく無関係の民間人を巻き込むなんてとんでもないことである。
やはりこの町は何かがおかしい。
さっきの犬は明らかに普通の犬ではない。
体毛が青かったというだけでなく、その統率された動きは狼か軍用犬のそれに匹敵する。
いや、むしろ動物というより人間ぽかったのは気のせいだろうか?
ただでさえ、地盤沈下の件が不可解だというのに、野良犬騒ぎまでもがそうだったとは。
決してあの巡査部長が無能なわけではないのだ。
後部座席の中に戻ろうとしてふと前を振り返った。
そのとき、夕菜が見たのは人の頭なら丸呑みにできそうな大きな口と鋭い牙だった。

「え?」

後ろのは陽動であり、ここで先回りをしていた青犬が待ち伏せしていた。
完全に犬にそんな知恵はないと思い込んでいた夕菜の失態である。
銃をあげてももう間に合わない。
あとはこの無慈悲な牙のギロチンが落ちるのをただ眺めるだけである。
そう夕菜は確信していた。
自身の経験、勘がそう結論付けたのだから疑う余地がない。
はずだった。
彼女は自身の死に際しても瞼を微動だにさせなかった。
長年の経験から、目をつぶれば即死につながると知っていたからだ。
そんな彼女の目の前で、青い犬は直上から何らかの力を受けて90度そのベクトルを変化させた。
彼女を噛み砕くはずだったギロチンは時速80キロで地面にたたきつけられる。
夕菜はそれを見て銃をおろしたまま引き金を引く。
射線にいた青い死神は地面への激突と銃撃で原型をとどめていなかった。
もっとも、車上の二人にはそれを確認するすべはない。

一瞬、夕菜の頬にひんやりとした風が通り抜けた。
車の上に和服の少女がいた。
だがそれはすぐに消え。
改めてみても、車の屋根には何もない。
いや、それが当たり前である。
今までの無茶な運転、時速を考えると、まず屋根の上に人がいるという時点でおかしいのだから。
自分は運よく生き延びた。
ただそれだけのこと。
夕菜はそう結論づけて、春と運転を変わってもらうために車の中に戻った。
夕菜は魔法も魔法使いのことも、使い魔のことも知らなかった。

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